「経理は引く手あまただと聞いたのに、なぜか書類選考すら通らない…」
「未経験だから仕方ないのかもしれないが、もう何社も不採用が続いている」
「経理経験はあるはずなのに、自分の市場価値はこんなに低いのかと落ち込んでいる」

経理への転職を目指して活動しているにもかかわらず、思うような結果が出ずに、自信を失いかけているのではないでしょうか。専門職である経理への転職は、決して簡単なものではありません。しかし、あなたの転職がうまくいかないのには、必ず何らかの「理由」が存在します。

経理の現場で15年以上、数多くの採用選考にも関わってきた私の経験から断言できるのは、「転職できない」と悩む人の多くが、いくつかの共通した落とし穴にはまっているということです。

本記事では、経理への転職がうまくいかない根本的な原因を、未経験者・経験者それぞれの立場から徹底的に解剖し、明日から実行できる具体的な対策を網羅的に解説します。この記事を読み終える頃には、あなたの目の前の霧が晴れ、進むべき道がはっきりと見えているはずです。諦めるのは、まだ早い。あなたのキャリアを好転させるためのヒントが、ここにあります。

経理未経験者が転職できない主な理由と成功のコツ

未経験からの挑戦は、ただでさえハードルが高いもの。しかし、不採用が続くのには明確な理由があります。まずは、未経験者が陥りがちな4つの原因を見ていきましょう。

理由1 そもそも「入場券」を持っていない(日商簿記2級の不在)

経理への転職において、日商簿記2級は「持っていると有利な資格」ではなく、「なければ土俵に上がることすら許されない入場券」です。特に20代後半以降の未経験者であれば、これは絶対条件と考えてください。

採用担当者は、簿記2級の有無で「経理の共通言語を理解しているか」そして何より「本気で経理になる気があるか」を見ています。口でどれだけ熱意を語っても、資格という客観的な証拠がなければ、「ただの思いつきかもしれない」と判断されてしまうのです。もしあなたが簿記2級を持たずに応募を続けているなら、それが不採用の最大の原因である可能性が極めて高いでしょう。

理由2 応募書類で「あなたの価値」を伝えきれていない

未経験なのは皆同じ。差がつくのは、これまでの社会人経験で培ったスキルを、経理の仕事にどう活かせるかアピールできているかです。

  • NG例:「営業として頑張りました。コミュニケーション能力には自信があります」
  • OK例:「営業として、50社以上の顧客との折衝や納期調整を行ってきました。このコミュニケーション能力は、経理として他部署と連携し、必要な情報を円滑に収集する上で必ず活かせると考えています」

上記のように、前職の経験(コミュニケーション能力、PCスキル、課題解決能力、業界知識など)と、経理の業務内容を具体的に結びつけられていない職務経歴書は、採用担当者の心に響きません。「私を雇うと、こんな良いことがありますよ」というプレゼンテーションができていないのです。

理由3 応募する「戦場」を間違えている

あなたの経歴がどれだけ素晴らしくても、そもそも未経験者を採用する気のない企業に応募していては、永遠に内定は出ません。例えば、誰もが知るような大手企業や人気企業は、経験豊富な即戦力を求めている場合がほとんどです。そこに未経験で応募するのは、武器を持たずに戦場に飛び込むようなものです。

狙うべきは、「未経験者を育てる文化と体力のある企業」です。具体的には、

  • 中小企業:ポテンシャルを評価してくれる可能性が高い
  • ベンチャー企業:意欲や人柄を重視する傾向がある
  • 会計事務所:未経験者を一から育てる文化が根付いている
  • 派遣・紹介予定派遣:実務経験を積むための入り口として最適

「未経験者歓迎」「ポテンシャル採用」と記載のある求人にターゲットを絞るだけで、選考通過率は劇的に改善します。

理由4 面接で「なぜ経理なのか」に答えられていない

面接官が最も知りたいのは、「なぜ数ある仕事の中で、わざわざ未経験から経理を選んだのか」という、あなたの覚悟です。「安定してそうだから」「楽そうだから」といった安易な動機はすぐに見抜かれます。自分自身の過去の経験と結びついた、一貫性のあるストーリーが必要です。

「営業で売上数字を管理する中で、その背景にある会計に興味を持った」「事務職で請求書処理を手伝ううちに、より専門性を高めたいと思った」など、あなた自身の原体験に基づいた、あなただけの志望動機を準備できていますか。これが語れないと、あなたの本気度は伝わりません。

経理職への転職でよくある失敗事例と対策まとめ

「経理経験があるのに、なぜか転職できない」という方も少なくありません。経験者が陥りがちな失敗パターンと、その対策を見ていきましょう。

失敗事例1 自分の「市場価値」を勘違いしている

経理経験者によくあるのが、自身の経験と、応募する求人のレベルがミスマッチを起こしているケースです。

  • 背伸びしすぎ:経験2年で月次決算の補助しか経験がないのに、年次決算の主担当を求める求人に応募してしまう。
  • 安売りしすぎ:連結決算やマネジメント経験があるのに、若手担当者レベルの求人にばかり応募してしまう。

【対策】まずは、転職エージェントに登録し、キャリアアドバイザーとの面談を通じて、自分の市場価値を客観的に把握することが不可欠です。「あなたの経歴なら、このくらいの年収レンジで、こういったポジションが狙えます」というプロの意見を聞くことで、応募すべき求人が明確になります。

失敗事例2 年齢に見合った「付加価値」をアピールできていない

年齢を重ねるごとに、企業が経理に求めるものは変化します。20代なら実務能力だけでも評価されますが、30代、40代とキャリアを重ねるにつれ、「プラスアルファの付加価値」が求められます。

  • 30代で求められること:主担当としての決算経験、後輩の指導経験、業務改善の提案・実行力
  • 40代以上で求められること:マネジメント経験、連結決算、管理会計、IPO、M&Aなどの高度な専門性

もしあなたが、年齢は重ねているものの、経験が日々のルーティンワークに留まっているのであれば、それが「転職できない」原因かもしれません。 【対策】これまでの経験を棚卸しし、単なる作業者としてではない「貢献実績」を掘り起こしましょう。「会計システム導入に際し、ベンダーと現場の橋渡し役を務めた」「〇〇という業務フローを改善し、月間10時間の工数削減を実現した」など、具体的なエピソードを職務経歴書に盛り込みましょう。

失敗事例3 職務経歴書が「業務の羅列」になっている

これは経験者に最も多い失敗です。職務経歴書が、ただの「やってきたことリスト」になってしまっています。

  • NG例:「月次決算、年次決算、法人税申告を担当」
  • OK例:「従業員300名規模の事業会社にて、主担当として年次決算を5年間担当。監査法人対応や税務調査対応も経験し、申告書の作成まで一貫して行いました。また、決算早期化プロジェクトを主導し、決算日数を従来の7営業日から5営業日へ短縮することに成功しました」

【対策】実績は必ず「具体的な数字」を交えて記述しましょう。「何をしたか」だけでなく、「その結果、どんな成果が出たか」まで書くことで、あなたの貢献度が明確になり、採用担当者の評価は格段に上がります。

経理職の転職に求められるスキルと資格の実態

「経理は引く手あまた」という言葉を鵜呑みにしてはいけません。転職市場のリアルな実態を正しく理解することが、成功への近道です。

「経理は引く手あまた」という言葉のワナ

この言葉は半分本当で、半分嘘です。正しくは、「スキルを持つ一部の経理経験者は引く手あまた」です。具体的には、以下のような人材を指します。

  • 月次・年次決算を一人で完結できる
  • 税務申告書(法人税・消費税)を作成できる
  • 連結決算や開示業務の経験がある
  • マネジメント経験がある
  • 会計ソフト導入や業務改善の実績がある

逆に言えば、補助的な業務経験しかない場合や、未経験者は、決して「引く手あまた」ではない、厳しい競争にさらされているのが現実です。

経験が浅いと見なされる「3年の壁」

経理の世界では、一般的に「経験3年」が一つの目安とされています。年次決算を一通り3回経験して、ようやく一人前と見なされる傾向があります。そのため、経験年数が1〜2年と「浅い」段階での転職は、「第二新卒」とほぼ同じポテンシャル採用の枠組みで見られることが多いです。高いスキルや年収を求めるのではなく、「2社目でしっかりと経験を積みたい」という謙虚な姿勢で臨むことが重要です。

資格はあくまで「前提知識」 実務経験こそが本質

資格は重要ですが、それだけで転職できるわけではありません。資格と実務経験の関係性は以下の通りです。

  • 日商簿記2級:スタートラインに立つための最低条件。
  • 日商簿記1級、税理士科目合格、USCPA:高度な知識の証明であり、大きなアピールになる。特に専門性の高いポジションでは有利。

しかし、企業が最終的に見ているのは「その知識を使って、実際に何ができるのか」という実務能力です。資格はあくまで、あなたの実務能力を裏付ける補強材料と捉えましょう。

経理職で転職できない場合のキャリアの選択肢

どうしても経理職への転職がうまくいかない場合、一度立ち止まって、他の選択肢に目を向けることも重要です。固執しすぎず、視野を広げてみましょう。

選択肢1 正社員にこだわらず「経験」を取りに行く

未経験者や経験が浅い場合、いきなり正社員を目指すのが難しいこともあります。その場合は、雇用形態を変えてでも、まずは「実務経験を積む」ことを最優先する戦略が有効です。

  • 派遣社員:様々な企業で経験を積むことができ、未経験OKの求人も多い。
  • 紹介予定派遣:最長6ヶ月の派遣期間後に、双方合意の上で正社員になれる制度。企業との相性を見極められるメリットがある。
  • パート・アルバイト:補助的な業務から始め、ブランクのある方や主婦(夫)の方でも挑戦しやすい。

選択肢2 会計事務所で修行を積む

事業会社の経理に比べて、会計事務所は未経験者やポテンシャルのある若手を採用する傾向が強いです。最初の数年間は給与が低いかもしれませんが、多様な業種のクライアントを担当することで、短期間で圧倒的な実務経験と税務知識を身につけることができます。数年後に、その経験を武器に事業会社の経理へ転職すれば、キャリアアップも可能です。

選択肢3 「経理周辺職種」に視野を広げる

簿記などで得た会計知識は、経理以外の職種でも大いに活かせます。

  • 財務:資金調達や資産運用など、未来のお金を扱う仕事。経理と親和性が非常に高い。
  • 経営企画:予算策定や経営分析など、数字を基に会社の未来を描く仕事。 – 内部監査:会社の業務が正しく行われているかをチェックする仕事。 – 営業事務/アシスタント:請求書発行や売掛金管理など、経理に近い業務を担当する機会がある。

選択肢4 現職で「経理経験」を作る努力をする

もし今の会社に留まる選択肢があるなら、社内で経験を積めないか模索してみましょう。

  • 経理部への異動を願い出る:最も直接的な方法です。
  • 数字に関わる業務に積極的に関わる:自部門の予算管理を担当する、売上データを分析して報告書を作成するなど、アピールできる「数字に強い経験」を自ら作りにいきましょう。

経理への転職活動でよくある質問とその答え【FAQ形式】

最後に、転職活動中の方が抱える具体的な悩みに、一問一答形式でお答えします。

経理未経験だと採用されないのはなぜですか

A. 主な原因は「資格不足(簿記2級がない)」「応募書類でのアピール不足」「応募先のミスマッチ」「面接対策不足」の4つです。本記事で解説した対策を一つずつ実行すれば、状況は必ず改善します。特に簿記2級の取得は、今すぐ始めるべき最優先事項です。

未経験からの経理は「しんどい」と聞きますが本当ですか

A. はい、最初の数年間は「しんどい」と感じる可能性が高いです。覚えるべき専門知識や社内ルールが多く、1円の間違いも許されないプレッシャーがあり、繁忙期は多忙を極めるためです。この「しんどさ」を乗り越える覚悟と、地道な作業を厭わない適性がなければ、長続きは難しいかもしれません。

経理は「引く手あまた」ではないのですか

A. 誰でも引く手あまたなわけではありません。「決算を一人で完結できる」などのスキルを持つ、市場価値の高い経験者が引く手あまたというのが実態です。この言葉を鵜呑みにせず、自分の現在の市場価値を冷静に分析することが重要です。

経理経験が浅い(1〜2年)のですが転職は可能ですか

A. 可能です。ただし、第二新卒と同様の「ポテンシャル採用」の枠で見られることが多いです。高い年収や役職を求めるのではなく、「2社目で一人前の経理に成長したい」という謙虚な姿勢と学習意欲をアピールすることが成功の鍵です。未経験者歓迎の求人も視野に入れると、選択肢が広がります。

やはり経理への未経験での転職は難しいのでしょうか

A. 簡単ではありませんが、決して不可能ではありません。「難しい」理由は、専門性が求められ、かつ人気職種でライバルが多いからです。しかし、正しいステップ(①簿記2級取得 → ②応募書類の作り込み → ③応募先の適切な選定)を踏めば、道は必ず開けます。諦めずに挑戦を続けましょう。

経験者なのに経理への転職が難しいのはなぜですか

A. 年齢に見合ったスキルや経験が不足している(マネジメント経験や専門性がない)、あるいは、職務経歴書で過去の実績を効果的にアピールできていない、というケースが考えられます。また、面接での受け答えからコミュニケーション能力に懸念を持たれている可能性もあります。転職エージェントなどを活用し、第三者の視点から自分の強み・弱みを分析してもらうことをお勧めします。

現職ではこれ以上経理経験を積めません どうすれば良いですか

A. 転職が最も直接的な解決策です。現職に留まるよりも、会計事務所や、幅広い業務を経験できる中小企業などに移り、新しい環境でスキルを磨く方が、結果的にキャリアアップに繋がります。あるいは、派遣社員として様々な企業の経理を経験し、自分のスキルを棚卸しするのも一つの手です。

「転職できない」という壁にぶつかった時こそ、あなたのキャリアを深く見つめ直す絶好の機会です。一人で抱え込まず、この記事を参考に、そして時には転職のプロの力も借りながら、着実に一歩ずつ前に進んでいきましょう。あなたの挑戦を、心から応援しています。